痛いところ=悪いところ、とは限らない
2026/09/09
昔、鍼灸院のトイレが壊れたことがありました。
水が流れなくなったのか、水漏れのような音がしていたのか。細かいことはもう覚えていません。
修理の方に来てもらい、見てもらっていたときのことです。
その方が、何気なくこんなことを言いました。
「音が鳴っているところが、必ずしも悪いとは限らないんでね」
修理をする方にとっては、ごく当たり前の一言だったのかもしれません。
でも、私はその言葉を聞いて、ハッとしました。
私はピチャピチャと水が漏れているような音がする場所ばかりを気にしていました。
ところが、実際の原因はそこではなく、別のところにあったのです。
そのとき、ふと自分の施術のことを考えました。
痛みのある場所ばかりを追いかけていた
患者さんが「肩が痛い」と言えば肩を見る。
「腰が痛い」と言えば腰を見る。
そして、なかなか痛みが取れないとなると、さらにその場所を詳しく見ようとする。
昔は、気がつけば痛みのある場所ばかりを追いかけていることがありました。
でも、それはあのときの私が、ピチャピチャと音のする場所ばかりを見ていたのと同じなのではないか。
痛みが出ているところが、必ずしも悪いところとは限らない。
あの修理工さんの何気ない一言は、身体を見るときにも大切なことを教えてくれたように思います。
身体全体から手がかりを探す
では、痛いところだけを見ないのなら、何を見るのか。
初めて来られた方の場合、私はまず歩いている姿を見ます。
どんなふうに歩いているのか。
どんな動きをすると痛むのか。
骨盤や身体の左右差はどうなっているのか。
そして実際に身体に触れて、筋肉の硬さや身体の温度なども見ていきます。
例えば、膝が痛い方でも、足首を調整すると膝が楽になることがあります。
肩がつらい方でも、顎関節を調整することで肩が楽になることがあります。
腰痛の場合も、腰だけを見るわけではありません。
お尻の筋肉、ハムストリングス、大腿四頭筋、ふくらはぎ、アキレス腱、足首など、腰から離れたところまで触っていきます。
もちろん、「膝の痛みの原因は足首」「肩こりの原因は顎」と単純に決められるものではありません。
ただ、身体全体を見ていくと、患者さんが「ここが痛い」と指さしている場所とは別のところに、大きな手がかりが見つかることがあります。
「先生、そこじゃなくて肩なんですけど」
一方で、患者さんからすれば、痛いところを治療してほしいと思うのは当然です。
肩が痛くて来たのに、顎や足ばかり触られていたら、
「先生、そこじゃなくて肩なんですけど」
と思うかもしれません(笑)
痛いところに触れてもらわないと、治療してもらった気がしない。
なんとなく満足できない。
これは、とても自然な感覚だと思います。
だから私は、痛いところを見ないわけではありません。
基本的には、患者さんが痛いと訴えている場所にもほぼ必ず触れます。
身体の状態を確認するためでもありますし、患者さんに安心して施術を受けてもらうためでもあります。
ただし、例外もあります。
例えば、ぎっくり腰などで痛みが非常に強く、直接刺激しない方がよいと判断した場合には、あえて痛い場所に触れないこともあります。
痛いところだけを見ない。でも、無視もしない
痛いところだけを見るわけでもない。
だからといって、痛いところを無視するわけでもない。
身体全体を見ながら、その痛みに何が関係しているのか、一つずつ手がかりを探していく。
今は、そんなふうに身体を見るようにしています。
あの日、トイレを修理しに来てくれた方は、自分の何気ない一言が、その後も私の頭に残っているなんて思ってもいないでしょう。
「音が鳴っているところが、必ずしも悪いとは限らないんでね」
身体を見ていて迷ったとき、今でもときどき思い出す言葉です。
写真は畑の里芋の葉っぱ。

